一片 −Lシチュエーション3−

Posted by admin on 12月 7, 2011 at 5:07 am.

「ボクのこと、好きなの?」その言葉に彼女は少し困ったような顔でボクを見つめていた。もう、ほとんど人がいない2年3組の教室。窓から差し込む夕日が彼女の横顔を赤く染め上げている。閉め忘れていたのか、どこからか吹いた少し冷たい秋の風が、緩やかに彼女のスカートの端を揺らした。「それが?」少し考えるように小首をかしげて、彼女は慎重に言葉を選びながらそう答えた。彼女はじっとボクの次の言葉を待つ。少し気まずい雰囲気だ。それは彼女も同じなのか、ボクからは視線をはずし少し短く切ったセミロングの髪の先を細い指で触りながら黙り込む。慌てて言葉をつむぐ。

「あ、あの、ごめん。やっぱり今の忘れて」「いいけれど・・」苦笑してそう言った彼女は少し残念そうに見えた。ボクは何を言っている?違う、彼女に伝えたいことはこんなことじゃない。言葉を続けようとしたが、それをさえぎるように彼女が口を開いた。「もし、さっきの言葉が本気なら、ごめんなさい。私はあなたの気持ちにはこたえられないの」「・・・どうして?」彼女の言葉にボクはボクは思わずそう答える。少し思案するように間を空けてから彼女はゆっくりと、しかしはっきりと答えた。「それは、私が”ラミア”だから」そういって、彼女は少し笑った。

その顔はどこか寂しそうに見えた。”ラミア”は神話やファンタジーに出てくるモンスターの事だ。人の血や生命力を糧として、自分達の命を維持する、いわゆる吸血鬼の類。

ただ”ラミア”は生き物を殺すことなく少し生命力をもらうだけで生きていける。ゲームに出てくるようなむやみやたらと人間を殺すようなマネはしない。人との間に子供をもうける事だってできる。どこぞの有名な吸血鬼のように、狼や霧に変身したり、ただ理不尽に人を殺したり、石仮面を被ったり、でかい銃を振り回してヴァチカンの神父と戦ったりしないのだ。そして、その存在が認められ、人と同じように権利を認められてきたのはここ10年くらいの話だ。「でも、人は自分達とは違うものを嫌うもの。”ラミア”は人と共存できるとは言われていても、やはり受け入れられない事が多いの。だから、私の事は秘密にしておいて。

・・大丈夫、人を襲ったりは絶対しないから」そう言って彼女が笑ったまま、少し目を伏せる。

彼女を好きだと言った人間はボクが始めてではないのかも知れない。でも、そのたびに”ラミア”である彼女は人間とは違う存在であることを思い知らされ、傷ついてきたのだろう。

「それでも、それでもいい。

ボクは君の事が好きだから!」思い切って、そういったボクを彼女がきょとんとした顔で見つめた。ボクは視線をはずさず彼女を見つめ返す。「そう、そんなに私の事好きなんだ。ふーん・・」彼女がボクの方にゆっくりと歩み寄る。「あの・・」ボクの問いかけに彼女は答えない。ただゆっくりとした歩みは教室の雰囲気をがらりと変えた。外で鳴いていた鳥達が一斉に羽ばたいた。「・・・ラミアがどういう存在か、まさか知らないわけじゃないでしょ?」ボクは小さくこくりと肯く。

でも、それが精一杯。身体が動かない。

背筋に冷たい汗が伝う。「本当に私の事が好きなら、私のために・・・私の命の”糧”になってくれるよね?」がしり、とボクの肩を彼女がつかむ。細い彼女の身体からは想像できないような力。抵抗できない。かっと開かれた彼女の口には大きな犬歯が見えた。本能的に身体が逃げようとする。でも、逃げない。逃げたくない。

彼女はそうしてずっと人間とは違うと思い知らされてきた。

傷ついてきた。もうそんな思いはさせたくない。逃げたくても、ぐっと目をつぶって我慢する。

ふっと甘い匂いが鼻を突いた。頬に軽く何かが触れる感触。「く・・・ふふん・・・あはははははは!」こらえきれないといわんばかりの彼女の笑い声。目を開けてみると、お腹を抱えて笑転げる彼女の姿があった。今度はボクがきょとんとする番だった。「あ・・?え?・・あの・・え?」状況が飲み込めず、立ったままの僕を前に、彼女は笑い続ける。「君の顔・・・おっかしー。すっごい緊張してるんだもん!」ひとしきり笑った後、涙目のままボクの肩に手をかける。

「でも、”ラミア”でも私の事好きだって言ってくれたこと、うれしかったよ。君のそういう優しい所、好きだな」彼女はそういうと、じゃあねと言って教室を出た。

ボクは教室で一人残されたまま。そっと頬に手を当てる。・・やった。やったぞ。その場でボクは思いっきりガッツポーズを取った。有頂天のまま、家に帰る。明日また学校で会ったら、どんな話をしようか。日曜日にはどこかに遊びに行きたいな。

そんな事をいろいろ考えながら。次の日。彼女は学校に来なかった。その次の日も、その次の日も。そして、冬休みが始まる前に彼女が転校したことを先生から知らされた。

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